ロンデールに着くといつも通り『夜の調べ』に宿を取ってから、冒険者ギルドに向かった。
ダンジョンは冒険者ギルドの管轄であり、ダンジョンの管理や素材の買い取りなども冒険者ギルドで扱っていた。ただし、内部で見つかった宝物、武具、道具類は商人ギルドの方へ提携する仕組みになっているようだ。 俺達は上層の討伐系のクエストを受けてダンジョンに向かうことにした。 パーティ募集などもあったが、今回は肩慣らしのつもりなので三人で十分だろう。 それにパーティが必要な中層以降に行くとしても、パーティ選びは慎重に対応しなければならない。俺やカサネさんのスキルのこともそうだし、ロシェを同行させるか、させる場合メンバーに打ち明けるかなど色々問題が出てくるからだ。(考えてみれば皆が秘密を抱えてるってこのパーティもなかなか問題があるな。まぁカサネさんのは才能があったで誤魔化せそうだけど)
ダンジョンの入り口まで来ると何人かが並んで列を作っていた。
ロンデールのダンジョンは街近くの丘の上に入り口が作られており、ギルドに寄って入場管理がされていた。これは未帰還者を把握するためのもので、入場時に名前の記入かギルド証を提示するようだ。 俺達もギルド証を提示して中に入ると、入ってすぐのところに大きめの広場があった。広場は円形で等間隔に奥へ進むための道が八か所も暗闇をのぞかせていた。 俺達より前に入ったパーティは既に先に進んでいったらしく一人も残っていない。「最初からこんなに分かれ道が多いとどこから入るか迷っちゃいますね」
「そうだな。慣れてる人は正解の道を知ってるんだろうけど、俺達は今日が初めてだしな」 『風の流れがある道がいくつかあるからどれかが正解だと思うけど、まぁ最初だし運試しも兼ねて好きなところから入ってみれば良いんじゃない?』ロシェは風の流れからヒントを掴んだようだが特に教える気はなさそうだった。
確かに、別に急ぐ理由もないしな。カサネさんもどこでも良さそうだったので、適当に選んだ道から奥に進んでみる。 その後も数回、分かれ道や行き止まりに当たりながら進んでいくと、ある小部屋に辿り着いた。見た感じ色々朽カサネさんが魔法の修練をしながら数日、俺達は再び王都にやってきた。「そういえば、ここに来るのは例の事件依頼か、流石に王城も落ち着いてるかな」 「そこは大丈夫じゃないですか?あの時内通者を捕まえたようでしたから、そこから別の問題が起きている可能性はあるかもしれませんけど」 「もしその辺でごたごたしていたらすぐに許可を貰うのは難しいかもしれないな」 「仮に許可が得られても手続きに時間を取られる可能性もありますしね。とりあえず、考えるのは行って見てからでいいんじゃないですか?」 「それもそうだな」まずは町で宿を取ってから、王城前までやってきた。 城門前の兵士さんにゴドウェンさんへの取り次ぎをお願いして待っていると、しばらくして城の中からゴドウェンがやってきた。「久しぶりだな。姫様に会いに来たのか?」 「えぇ。いつ頃であればお会いできるでしょうか?」 「確認させよう。おい、姫様に予定の確認を」 「はっ!承知しました」 「お前達は一旦こっちに来てくれるか」言われた通り付いて行くと部屋の一室に案内された。「確認に行った部下が直ぐに戻ってくると思うから、悪いがそれまでここで待っていてくれ。俺も今は少し忙しくてな。またな」 「あ、お忙しい中ありがとうございました」ゴドウェンさんは手をひらひらさせて部屋を出て行った。 少しするとノックをして兵士の一人がドアを開けた。「姫様が直ぐにお会いになるそうです。こちらへどうぞ」兵士の案内で前にも来たことのあるミアの部屋までやってきた。 兵士の人が扉をコンコンとノックする。「姫様、お二方をお連れしました」 「入って貰って頂戴」 「はっ!」入室を促されて俺達はミアの部屋に入った。「久しぶりね。全然来てくれないから心配しちゃったじゃない。でも、皆元気そうね。安心したわ」 「ミアも元気そうで何よりだ。まぁ色々あってな。土産話には困らないと思うぞ」 「ミアさんお久しぶりです」
「シディルさんの孫のクレアさんのことですか」 「そう、本当に残念でならないわ。本人にその気があれば歴史を変えられるほどの存在になれたかもしれないのに。まぁ無理強いしても仕方ないしね。シディルなら上手くやるでしょう。優しくていい子だったしね」そう語るフィレーナさんは本当に残念そうだ。あの舞台劇のパフォーマンスを見る限り彼女の実力は疑うべくもない。フィレーナさんのこの反応も当然と言えば当然だろう。「少し横道に逸れてしまったわね。ということで、二つ目についてはあなた次第よ。自分で経験を積むのも、クレアちゃんと意見を交わしてみるのもあなたの自由よ」 「わかりました。二つの属性を得ることができたら一度話に行ってみようと思います」 「そう。それじゃ、クレアちゃんには私から連絡しておいてあげるわ。ちょうどシディルに手紙を出そうと思っていたところだしね」 「ありがとうございます」そして、フィレーナさんが指を鳴らすと俺達は屋敷のリビングに戻っていた。「それじゃ、難しい話はここまでにしましょう。久しぶりに真面目に話しちゃって疲れちゃったわ」そう言って彼女は自室に戻っていった。文字通り部屋で休むのだろう。 学園長が真面目に話すのが久しぶりっていうのはどうなんだ?と思わなくもなかったが、怖いので口にはしなかった。 その日はフィレーナさんの好意でもう一日泊まらせて貰い、翌日俺達は王都に向けて出発することにした。「色々とお世話になりました」 「良いのよ。今回はこちらも助かったわ。またいつでもいらっしゃい」フィレーナさんに見送られながらパーセルの街を出る。 街道をしばらく進んでいる間もカサネさんは色々と考えている様子だった。 あれだけ色々なことが急にあったのだ無理もないことだろう。 それからさらに少し経ったところで魔物達の襲撃があった。「二人は馬車をお願いします」真っ先に反応したのはカサネさんだった。彼女にしては珍しく詠唱してから正面の敵に対して呪文を発動させた。「スプラッシュ・ストーム」いくつもの水の塊が風の力で高速
「良いわ、続きを話しましょうか。これは王家とそれに関わる一部のものしか知らないことだけれど、王都ハイロエントの地下には特殊なダンジョンが存在しているの。そして、そのダンジョンの最奥には後天的に新たな属性を得られる秘宝が存在しているわ」あの王都の地下にそんなものが・・・でも、そんなものがあるのなら何故王家はそれを秘密に・・・いや、だからこそなのか。 俺達の表情から理解したのを読み取ったのかフィレーナさんが続ける。「そう。王家はその秘密と共に複数の属性を操れる王としてその地位を継承してきた。王都ハイロエントがあの場所に作られた理由であり、王家の最重要機密の一つという訳」 「フィレーナさんは何故そんなことを知っているんですか?というか、それを話してフィレーナさんは大丈夫なんですか?」 「なぜ知っているのか?という問いの答えは私もそれに関わっている人間の一人だから。詳細は内緒ね。話して大丈夫なのか?という問いの答えはあなた達次第になるわね。私は信頼の置ける者には話して良いと許可を貰っているの」それはつまり俺達がその信頼を裏切るようなことをすれば、フィレーナさんもその責任を取らされるということか。「あの、その秘宝っていうのをダンジョンから持ち帰ったりはしてないんですか?そうすれば何度もダンジョンに入る必要はないと思うんですけど」 「私も実際に見たわけじゃないけど、秘宝とは言っても実際は儀式場の様なものらしいわ。だからまるごと持ち帰るのは無理なのよ」 「なるほど。そういうことですか」フィレーナさんの返答に、カサネさんは頷いて納得した。「まぁ話せるのとそのダンジョンに入場させられるのは別の話だから、私から推薦はできても入場許可までは出せないんだけど、あなた達ならそこは大丈夫でしょう ・・・たぶん」 「今最後に小さくたぶんって言いませんでした?」 「小さいことを気にしてたらモテないわよ?なんて冗談はともかく、私は王様ではないから、流石に断定まではできないわ。推薦状は渡すからあとは何とかして頂戴」予め準備していたらしく、近くの棚から取り出した推薦状をこちらに渡してきた。
カサネさんが一日講師を終えた翌日、フィレーナさんが学生達からの評価や感想を纏めたアンケート結果を持ってきた。 なお、現在俺達はフィレーナさんのお屋敷でお世話になっている。「あなたの講義、かなり好評だったわよ。カサネ先生を学園に勧誘して欲しいって嘆願書を出してきた生徒もいたくらい」 「うっ。そんな風に言って頂けるのは有難いですけれど、私は教師になるつもりはないので」 「そうでしょうね。まぁそれは分かってたから気にしないで。こちらで適当に処理しておくわ」フィレーナさんはそう言って自身で淹れてきた紅茶に口を付けた。 その話題に合わせて俺やロシェもそれぞれの感想を述べた。「確かにカサネさんが教師だって言われても違和感ないくらいしっかり授業してたもんな」 『そうね。他の人は分からないけれど、立派に教えられていたんじゃない?』 「えっ!?お二人も見てたんですか?」 「あぁ。見られてるのに気づいたら緊張するかもって、フィレーナさんが遠見の部屋っていうのに案内してくれてさ、そこで見学させて貰ってた」今になってそのことを知らされたカサネさんが恥ずかし気に頬を赤く染めた。「そ、そんな・・・わ、忘れて下さい。今すぐ!」 「いや、そんな無茶言われても。。それに別に恥ずかしがるようなことはなかったと思うけど」 「見られてたこと自体が恥ずかしいんです!うぅ、もういいです」カサネさんはプイっと顔を背けてしまった。拗ねてしまったようだ。「ふふっ。恥ずかしがるカサネちゃんも可愛いわね。やっぱり若い子達を見ているのは楽しいわ」 「・・・フィレーナさん、そういうことを言うのって歳・・・いえ、なんでもないです。ごめんなさい」カサネさんの反撃はフィレーナさんの一瞥で撃ち落とされてしまった。 怖い。やはり逆らってはいけない人だ。「さてと、こういうお話も楽しいけれど私もちゃんと報酬の話をしないとね」そう言うとフィレーネさんは表情を真剣なものに変え、パチンと指を鳴らした。 すると、足元に魔法陣が現れ前と同じよ
Side.カサネフィレーネさんとの交渉?で一日講師が決まった後、私は講師としてどういうことをすればよいのかを改めて確認した。 概要としては学園内の魔法練習場または街近くの魔物相手に実践的な戦い方のコツなどを教えればよいという話だった。 街の外は危険じゃないですか?と質問してみたが、対象の学生は二、三年目で、街近くの魔物くらいであれば問題はないらしい。あと外に出る場合はサポートの教員が一名同行してくれるとのこと。 単純な魔法の扱い方であれば練習場で十分かもしれないけれど、実践的なという話になると魔物相手の方が理解して貰いやすいとは思う。ということで、今回は街の外でお願いすることにした。 時間については最長で一日取っており、余った場合も復習などに充てるためあまり気にしなくて良いという話だった。 翌日は学園に赴いて教師の方々に軽く紹介して貰い、学生達のことや諸注意など基本的なことを教えて貰うことになった。 授業風景なども見せて貰い、魔法練習場で実際に魔法を使う学生の子達の姿も確認させて貰ったところ、攻撃魔法を主に教えているというだけあって学生とは思えないくらいにその魔法はしっかりしたものだった。(これは、少し内容を考えないとがっかりさせてしまいそうですね・・・)その様子から多少の応用程度の内容では、この子達は満足しないだろうと予想したカサネは、考えていた内容を上方修正する方向で再検討することにした。そして、いよいよ一日講師の当日がやってきた。 サポートの教師の先導で教室に入ると、がやがやとした生徒の声が静まり代わりにひそひそ声が聞こえてきた。「あれ?今日来るのって男の人じゃなかったっけ?」 「なんか病欠で急遽変わったらしいよ」 「マジかよ。それにしても超美人じゃないか?」 「だよな?だよな?」 「お姉さま・・・素敵・・・」何だか聞くべきでない呟きも聞こえた気がするが、おおむね学生らしい反応だった。「皆さん静かに。本日は予定していた特別講師の方が急遽病気で来れなくなってしまったため、学園長から推薦のあったこちらのカサネさんに特別講師としてお越し頂きま
俺達は遺跡で見つけたシースザイルさんの書物のことや、エルセルドの地下都市で見つけた魔法のことを話して、どうするべきか意見を求めた。 黙って話を聞いていたフィレーナさんは、俺達が話し終わった後もしばらく無言で俯いていたが、顔を上げると真剣な表情でカサネさんに聞いた。「一番良いのは二度とその魔法を使用しないことだけれど、そう言ったらあなたは素直に従ってくれる?」問われてカサネさんは一瞬反射的に答えかけ、深呼吸をした後に返事をした。「理由を聞いても良いですか?」 「まぁそうなるわよね。でも、一度使ったのならあなたにも分かったんじゃない?その魔法の危険性が。その時はただの失敗で済んだみたいだけれど、制御を誤ればどれだけの被害が出るか分からないわ。あなたのような優秀な魔導士が使えばなおさらね」 「失敗?でも、あの時魔法は発動してましたけど」フィレーナさんの発言に疑問を持った俺は思わず聞き返した。 先ほどその時の話もしていたのだが、フィレーナさんはその疑問にもあっさりと答えを返してきた。「それは呪文の残滓が発動の言葉に反応しただけよ。もし成功していたのなら、仮にそれで魔力がゼロになったとしてもその瞬間に術者が気絶するなんてことはないわ」つまりあの呪文は失敗した上で、その残滓だけであのような現象を引き起こしたということらしい。 もしあの時呪文が成功していればどのくらいの範囲が同じように消し飛んでいたのだろうか。考えるだけでも恐ろしかった。「だから理由は簡単よ。もしあなたがその魔法を正しく発動させた上でその制御を誤った場合、周囲数十キロ…いえ、あなたの今後の成長も考えればそれ以上の範囲が無に帰す可能性があるわ」そう語るフィレーナさんには冗談を言っているような雰囲気はなかった。 つまり十分に起こりえる可能性があると考えている。ということだ。 正直話が大きすぎて、俺には何とも言えなかった。 カサネさんは額に汗を滴らせながらも、真剣な表情でフィレーナさんに答えた。「その上で、この魔法を制御できるようになる方法を教えて欲しいとお願いしたら、フィレーナさんは教えてく